友人はいます。家族もいます。職場でも、それなりに話しています。 なのに、本当のことは何ひとつ言っていない。
気づいたのは、たぶん、ふとした瞬間だったと思います。 最後に本音を話したのはいつだったかと考えて、思い出せなかったとき。
相手がいないわけではないのに、話せない。 そのことに気づいてしまうと、急に、自分がずいぶん遠くまで来ていたことが分かります。
話す相手がいないのと、話せる自分がいないのは、別のことです
本音が言えない、と検索する方の多くは、相手を探しているわけではありません。 探しているのは、話し方のほうです。
長く言わずにきた人には、はっきりした特徴があります。 まず、聞かれても、とっさに出てくるのが本音ではありません。相手が困らない答えのほうが、先に口から出てしまう。
次に、いざ話そうとしたときに、自分が何を思っているのか分からない。 言葉にしていないものは、輪郭ができません。輪郭のないものは、人にも渡せません。
そして最後に、こう思います。 こんなことを言っても仕方がない。重い。迷惑になる。話すほどのことでもない。
この三つが揃うと、本音は口の手前で毎回引き返します。 それを何年も続けると、引き返すことのほうが自然になります。
鑑定師としての見立て
わたしが学んできた帝王学陰陽五行の見方では、人の宿命を三つの柱で捉えます。日柱はその人自身の心にあたる部分、月柱は家系から受け継いだ流れと社会に出たときの面、年柱は仕事や友人との関わりに出やすい面です。
本音が出にくくなる背景には、この月柱の部分が関わっていることがよくあります。 家系から受け継ぐのは、性格だけではありません。この家では困りごとをどう扱うか、弱音を出していいのか、感情をどこまで表に出すのか。そういう作法が、静かに受け渡されていきます。
弱音を言わないのが誠実だとされる家。心配をかけないことが親孝行だとされる家。感情を出す人がいると場が乱れる家。 そういう場所で育った人にとって、黙ることは我慢ではなく、礼儀です。礼儀としてやってきたことを、あとから「自己表現が足りない」と言われても、直しようがありません。
もうひとつ、心の側の話もしておきます。 宿命鑑定では、その人の心の中身をいくつかの星に分けて見ます。そのなかに、感じ取る精度がとても高い星があります。この星を持つ人は、場の空気の変わり目や、相手の言葉と表情のずれに、先に気づいてしまいます。
気づく力が高い人ほど、本音は出しにくくなります。 言う前に、相手がどう受け取るかが見えてしまうからです。この人はいま余裕がなさそうだ、この話をすると気を遣わせる。そこまで分かったうえで、飲み込む。 黙っているのは、閉じているからではなく、見えすぎているから、ということが多いのです。
わたしは、この状態を、長く開けていない扉のように思っています。 扉は、使わない期間が続くと、蝶番のところが固まります。壊れたのではなく、動かしていないだけです。ただ、久しぶりに開けようとすると、思った以上に力が要る。そして、開いたときに大きな音が鳴ります。
本音を言おうとしたときに、涙が出たり、思ったより強い言い方になってしまったりするのは、この音です。 本人はそれに驚いて、やっぱり言わないほうがよかったと結論づけてしまう。けれど、それは中身が過激だったのではなく、蝶番が固かっただけのことです。
ですから、いきなり全部を開けようとしなくて大丈夫です。 固まった扉は、少し動かして、また少し動かす。それが結局いちばん早い方法だと思っています。
同じ生まれの人でも、環境や生き方によって歩む道は変わります。当たり外れではなく、こういう作法のなかで育ってきたのだな、というところから始めてみてください。
今日からできる、小さな一歩
大きな告白は要りません。蝶番を少し動かすためのことを置いておきます。
- 独り言でかまわないので、声に出して一言だけ言ってみる。「疲れた」でも「嫌だった」でも。声帯を通すと、頭のなかで思うのとは別のものになります
- 本音のかけらを、ひとつだけ人に渡す。人生の話でなくていいのです。この店の味は好みじゃない、その予定はちょっとしんどい。その大きさから始めます
- 言えなかったことを、時間を決めて十分だけ書く。まとめようとせず、途中で終わってかまいません。書き終えることより、輪郭ができることが目的です
- 相づちを、ひとつだけ自分の言葉に変えてみる。「そうだね」を「わたしはこう思う」に変える回数を、一日に一回だけ
- 誰かに話す、という選択肢を持っておく。身近な人に言えないことは、少し離れた相手のほうが話せることがあります。相談窓口でも、専門家でも、形は何でもかまいません。手元にひとつ、話せる先があると知っているだけでも、日々の重さは変わります
ひとつだけで十分です。何も動かせない日があっても、後退ではありません。
おわりに
何年も言わずにきたのは、あなたが心を閉じたからではなく、たぶん、そうするのがいちばん角の立たない方法だったからだと思います。 その選び方で、ここまで誰かを守ってきたはずです。
ただ、守る側にずっといると、自分の声だけが聞こえなくなります。 今日は、誰にも渡さなくていいので、自分の声をひとつ出してみてください。
繊細さの正体については、調舒星は「めんどくさい」のか——傷つきやすさの正体にも書いています。
もし気持ちのつらさが深く、抱えきれないと感じているようでしたら、専門の相談窓口も頼ってくださいね。知らない相手のほうが話せる、というのは、逃げではなく、よくあることです。