実家から電話が鳴ると、内容を聞く前に少し身構える。 きょうだいには回ってこない相談が、なぜか自分のところだけに来る。
そして、断らない。 断れないというより、断ったあとに誰かが困る絵が浮かんでしまって、結局引き受けている。
そういう繰り返しを何年も続けてきた方が、ここへたどり着いてくださったのかもしれません。
しんどいと言えないことが、いちばんしんどい
長女のつらさが人に伝わりにくいのは、内容が地味だからです。
殴られたわけでも、放っておかれたわけでもない。 むしろ、頼りにされてきた。しっかりしていると褒められてきた。
だから、しんどいと言った瞬間に、話がややこしくなります。 恵まれているのに何が不満なのか、と受け取られてしまう。親のことを悪く言っているように聞こえてしまう。 そこまで想像がつくから、口を開く前にやめる。この「言う前にやめる」が、何年も積み重なっています。
そしてもうひとつ。 引き受ける側に回り続けた人は、自分が何をどれだけ引き受けたのかを、数えていないことがほとんどです。 当たり前としてやってきたことは、記録に残りません。記録に残らない疲れは、自分でも認めにくい。だから、こんなに疲れているのに理由が説明できない、という状態になります。
理由がないのではありません。数え忘れているだけです。
鑑定師としての見立て
わたしが学んできた帝王学陰陽五行の見方では、人の宿命を三つの柱で捉えます。日柱はその人自身の心にあたり、いちばん大きな割合を占めます。年柱は仕事や友人との関わりに出やすい面。そしてもうひとつ、月柱には、家系から受け継いだ流れが出ると考えます。
この月柱の話が、長女という立場を考えるときにいちばん効いてきます。
家系から受け継ぐものは、財産や顔立ちだけではありません。 この家では困りごとを誰が引き受けるのか。誰が我慢する側に回るのか。誰が場を収めるのか。そういう役割の配り方まで、静かに受け継がれていきます。
そして、その配り方は、たいてい誰も口に出しません。 話し合って決めたものではないからです。気づいたときにはもう決まっていて、当の本人にとっては、あまりに自然すぎて選んでいる意識すらない。
長女がしんどいのは、性格の問題ではなく、この配られ方の問題であることが多いように思います。 しっかりしているから任されたのではなく、任され続けたからしっかりせざるをえなかった。順番が逆になっている場合が、かなりあります。
わたしはこの立場を、家の軒先のようなものだと思っています。 軒は、家の中を濡らさないために、いちばん先に雨に当たる場所です。中にいる人は、軒が雨を受けていることに気づきません。気づかないくらい、うまく機能しているからです。 けれど、軒だけは毎年傷みます。傷んでも、外から見えるまで手を入れてもらえません。
ここで大事なのは、家の中の人が薄情だから気づかない、という話ではないところです。 守られている側には、守られていることが見えない。それだけのことです。ですから、この話をきょうだいや親を責める材料にする必要はありません。責めても軒の傷みは直らないからです。
直るとしたら、軒の側が「ここは傷んでいます」と言うところからです。 これは告発ではなく、ただの報告です。長く引き受けてきた人ほど、この報告を「わがまま」と読み替えてしまいますが、そこは切り分けていいと思います。
もうひとつ添えておくと、引き受ける力そのものは、あなたの資質です。 人の困りごとに気づける、段取りが立てられる、場を収められる。これは簡単に真似できるものではありません。いま苦しいのは、その力に休みが入っていないからであって、力そのものが厄介なわけではありません。
同じ生まれの人でも、環境や生き方によって歩む道は変わります。当たり外れではなく、こういう役割の流れの中にいたのだな、と眺めるところから始めてみてください。
今日からできる、小さな一歩
家族の形を変える話ではありません。あなたの側の重さを、少しだけ減らすためのものです。
- 今週、頼まれごとをひとつだけ「いまはできない」と返してみる。理由は要りません。断る練習は、いちばん軽い用件から始めるのがこつです
- 家族からの連絡に返す速さを、半日だけ遅らせる。すぐ返す人には、すぐ返る前提で用件が来ます。速度は、こちらで決めていいものです
- これまで引き受けてきたことを、誰にも見せずに書き出す。見せないのが大事です。数えることが目的で、認めさせることが目的ではありません
- 「わたしがやらなければ」と思ったとき、その後ろに「本当に?」と一度だけ足す。答えが出なくてかまいません。問いを挟む隙間ができるだけで違います
- 長女ではない顔で過ごす時間を、少しつくる。家族の誰も知らない場所に、一時間いるだけで十分です
すべてやる必要はありません。ひとつも動かせない週があっても、それは怠けではありません。
おわりに
しっかりしてきたことは、あなたの手柄です。 ただ、手柄と引き換えに休みを返上する決まりは、どこにもありません。
いまさら役割を降りられないと思っている方も多いですが、降りなくても、少し軽くすることはできます。 今日のところは、軒に雨が当たっていたことを、あなた自身が知っただけで十分です。
言えないまま抱えてきた方には、誰にも本音が言えないまま、何年も経ってしまった方へも置いておきます。
もし気持ちの落ち込みが長く続いていたり、家族のことで安全に関わる不安があるようでしたら、専門の相談窓口も頼ってくださいね。家の外に相談することは、家族を裏切ることではありません。